【初心者向け】【基礎編】永久磁石同期モータの仕組みと制御方法
実践!ベクトル制御の仕組みをブロック図で見てみよう!
こんにちは!
前回の記事では、三相交流を直流に変えてしまう魔法のような計算、「クラーク変換」と「パーク変換」についてお話ししました。
「でも、それって具体的にどう使われているの?」
そう思いますよね!今回は下のブロック図を見ながら、実際のモーター制御システムの中で、これらの変換がどのように活躍しているのか、その壮大な旅を一緒に追いかけてみましょう!


ベクトル制御の全体像:フィードバックが命!(*)
(*個人の感想です。他にも重要な要素があります。)
上図は、ベクトル制御の全体の流れを示したものです。一見複雑に見えますが、やっていることは非常にシンプルです。それは「目標と現実のギャップを埋め続ける」こと。これは「フィードバック制御」と呼ばれ、あらゆる精密制御の基本です。
例えば、車の運転を思い浮かべてください。
- 目標: 「時速60kmで走りたい」
- 現実: スピードメーターで「現在の速度」を確認
- 操作: 目標より遅ければアクセルを踏み、速ければ緩める
ベクトル制御もこれと全く同じです。右端の ① 電圧出力 が、実際にモーターへ送られる電気(アクセル操作)です。これを精密にコントロールすることが最終目標です。
そのためには、「今、モーターがどんな状態か?」(現実)を正確に知る必要があります。そのためのセンサーが左側にあります。
② 電流測定: モーターに実際に流れている3相の電流(A相, B相, C相)を測定します。これがトルクの源であり、「現実の力」の値です。
③ 速度・位置検出: モーターの軸(ローター)が今どの角度で、どれくらいの速さで回っているかを検出します。これがパーク変換の鍵となる「現実の位置」です。
これらの「現実」の情報をマイコンが受け取り、
- 座標変換とモータモデルを用いてモーター内部の 磁束成分(d軸)とトルク成分(q軸)を演算で把握し
- それぞれが目標値に一致するように電流を制御するための電圧指令を超高速で更新し続ける
これが、ベクトル制御の基本的な考え方です。
手順を追ってみよう!ACからDCへの変換(図の左半分)
では、測定した情報がどのように処理されていくか、図の左から中央へ向かって見ていきましょう。
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3相電流を測定: まず、② 電流測定で得られたA, B, C相の電流値(ぐにゃぐにゃした交流)からスタートします。
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クラーク変換 (3相→2相): この3つの交流値を、前回学んだクラーク変換を使って、直交する2つの交流値「α」と「β」に変換します。図の中では「静止系」と書かれている座標系ですね。これで、3つの変数が2つになり、少し扱いやすくなりました。
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パーク変換 (静止系→回転系): 次に、このα, βの値をパーク変換します。このとき③ 速度・位置検出で得られた「ローターの角度(θ)」を使います。回転するベクトルを追いかける回転座標「d-q座標」に乗り換えるのでしたね。
その結果、交流だったα, βの値は、直流の「d」と「q」の値に変換されます!
これで、モーターの「現実」の状態が、「磁束成分(d)」と「トルク成分(q)」という2つのシンプルな直流値として、マイコンが理解できる形になりました。
※IPMSMでは d軸電流もトルク生成に関与します。
制御の心臓部:「制御プロセス」(図の中央)
図の中央にある青い箱 制御プロセス が、ベクトル制御の頭脳です。ここでは、マイコンが最も得意な「直流値の比較と計算」が行われます。
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指令値との比較: 外部から与えられた「これくらいのトルクが欲しい」「これくらいの速度で回したい」という指令値をもとに決まる目標の d軸・q軸電流値と、先ほど計算した「現実の d, q 値」を比較します。
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誤差の計算: 「目標」と「現実」の差(誤差)を計算します。「目標トルクより現実のトルクが弱いぞ」「目標の磁束より強いぞ」といった具合です。
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PI制御による調整: この誤差をゼロにするために、「d軸の電圧をこれだけ上げよう」「q軸の電圧をこれだけ下げよう」といった調整量を計算します。この計算にはPI制御という、誤差が大きいほど操作量を大きくし、誤差が蓄積されていればさらに操作量を増やす、という賢い手法が使われます。
こうして、「目標に近づけるための、次の瞬間の理想的なd軸電圧とq軸電圧」が決定されます。
再びモーターへ!DCからACへの逆変換(図の右半分)
制御プロセスで決まった「d, qへの指令電圧」は、このままではモーターに送れません。モーターが理解できるのは三相交流だからです。
そこで、今度はこれまでと逆の変換を行って、マイコン語(直流)をモーター語(三相交流)に翻訳し直します。
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逆パーク変換 (回転系→静止系): まず、d, qの指令電圧を、逆パーク変換でα, βの交流指令値に戻します。これは、回転するメリーゴーラウンドから降りて、再び地面からベクトルを眺める作業に相当します。
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逆クラーク変換 (SVM): 最後に、α, βの指令値を、モーターが直接理解できるA, B, C相の具体的な電圧指令値に戻します。このとき、単純な逆クラーク変換よりもはるかに効率的で高性能な**SVM(空間ベクトル変調)**という手法が使われるのが一般的です。
逆変換の最終兵器:SVM(空間ベクトル変調)という名の芸術
SVMは、マイコンが作り出した「理想の電圧ベクトル(α,β)」を、インバータ回路の6つのスイッチ(ON/OFFしかできない不器用なスイッチ)を使って、いかに忠実に再現するかという技術です。


- GIFアニメの赤い矢印: これがマイコンの「こうなってほしい」という理想の電圧ベクトルです。滑らかに回転していますね。
- 六角形の頂点にある青い矢印: これがインバータのスイッチの組み合わせで物理的に作り出せる、たった6種類(+中心のゼロ)の基本電圧ベクトルです。カクカクしています。
SVMは、この限られた基本ベクトルを、人間には知覚できないほどの超高速(1秒に数万回)で切り替えて組み合わせることで、平均的に見ると、まるで理想の赤い矢印と同じ電圧がかかっているかのように見せかける、一種のデジタルアートです。
この技術のおかげで、私たちは限られた電源電圧から最大限の性能を引き出し、非常に滑らかで静かなモーター回転を実現できるのです。
まとめ:高速ループが生み出す滑らかな回転
ベクトル制御の手順をまとめると、以下のようになります。
測定(AC) → 変換(DC化) → 制御(DC) → 逆変換(AC化) → 出力
まるで外国語を一度日本語に翻訳して理解し、自分の考えをまとめてから、再び元の外国語に翻訳して相手に伝える作業のようですね。
この一連の「測定→計算→出力」というループが、マイコンの中で1秒間に1万回以上という驚異的なスピードで繰り返されています。この高速なフィードバックループこそが、負荷が急に変わっても、速度指令が変わっても、常にモーターを私たちの意のままに、滑らかかつ力強く回転させ続ける秘密だったのです.
具体的なセットアップ方法やサンプルコードの動かし方についての解説はこちら↓
【NXPマイコン入門】【モータ制御】【実践編①】永久磁石同期モータの仕組みと制御方法(日本語ブログ)
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