デジタル回路同士をつなぐとき,単純に信号線を直結すればいい…
ということはなくて,「論理レベルの電圧」が合わないと,動作しなかったり,不安定になったり,最悪の場合チップを壊してしまうことがあります.
そんなときに便利に使えるのが電圧レベル・トランスレータ(Voltage Level Translator.電圧レベル・シフタとも呼ぶ)です.
電圧レベル・トランスレータは,異なる電源電圧のデジタル回路間で信号をやり取りできるようにする回路です.
例えば,次のようなケースで必要になります.
図1:信号電圧の違い
このブログでは,デジタル回路で使われる論理回路の種類(*TTL,*LVTTL,*CMOS)の電圧レベルの違いから,それを判断する上で重要なVOH/VOL/VIH/VILの意味について解説します.さらに様々な変換の方法の中から,どのような電圧レベル・トランスレータを選べばよいかを解説します.
さらにこのブログでは信号の方向を自動で検出して変換を行う電圧レベル・トランスレータの具体例を見ていきます.
NXPではSDカード/SIMカード向けや,*GTL↔︎TTLレベル変換のような特定用途向け電圧レベル・トランスレータもラインナップしていますが,このブログは汎用またはシリアル・バス用途をターゲットにした製品の解説となります.
*TTL(Transistor-Transistor Logic)
*LVTTL(Low Voltage Transistor-Transistor Logic)
*CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)
*GTL(Gunning Transceiver Logic)
いわゆる「デジタル信号」は論理レベルの1と0を電気的に表現したものです.この論理レベルの1と0を扱う回路設計方法には歴史的に様々なものがあります.論理レベルを単純な電圧のHIGHとLOWで表現するものや,電圧の差を利用してHIGH/LOWを表現するものなど.
単純なHIGH/LOWを5V/0Vで表すTTL.さらにそのTTLを低電圧化し3.3V/0Vで表すLVTTLなどバイポーラ・トランジスタ回路を基準に電圧レベルが決められたもの.
同様にバイポーラ・トランジスタを使いながらも負電源を使い低振幅で差動で動作論理レベルを実装し,高速化が図られたECL.基準電圧を設けて低振幅のシングルエンド信号でHIGH/LOWを伝達するGTLなど...
また単純なHIGH/LOWでの表現でも低消費電力化を目的に開発された4000シリーズと呼ばれるCMOS汎用ロジックでは,HIGHレベルとして3V〜18Vを使うことができました.
https://en.wikipedia.org/wiki/Logic_family
このブログでは,上記のような様々な論理レベルの中でも,単純なHIGHとLOWの電圧で論理を表現するTTL(LVTTL)とCMOSの電圧レベルの扱いについて解説します.
その他の信号変換には専用チップが用いられるため,ここでは扱いません.
このほか近年では半導体技術の微細化・高速化・低消費電力化が進むとともに,電源に使われる電圧は低くなってきています.このため信号電圧差を橋渡しする電圧レベル・トランスレータは特に重要になってきています.
図2:信号波形 - 電圧の高低(HIGH/LOW)で論理レベルを表す
デジタル回路に使われる単純な電圧のHIGHとLOWによる論理レベルの信号には,HIGHを電源電圧で,LOWを0Vとするものが一般的です.電源電圧が異なってもHIGH/LOWの電圧レベルが同じであれば,そのまま信号をやり取りすることができます.
たとえばTTL(LVTTL)は入力される信号が2.0V以上であればHIGH,0.8V以下であればLOWと解釈します.このような取り決めがあるため,TTL信号であれば互いに電源電圧が異なってもHIGH/LOWの電圧レベルは変わりません.
いっぽう,CMOSは電源電圧の半分の電圧を基準にしてHIGH/LOWを定義します.このためCMOSは電源電圧が異なるとHIGH/LOWの電圧レベルも変わります.
図3:入力信号電圧の規定
デジタル回路ではHIGHとLOWとして出力される電圧と,入力される信号をHIGHとLOWに判断する電圧が規定されています.これらは使用する各チップの仕様で規定されているため,データシートで確認する必要があります.
出力ではHIGH/LOWを出力する際の電流を考えておかねばなりません.電流は負荷により増減します.
HIGH出力での最大流出電流時に保証できる電圧をVOH(min),LOW出力での最大流入電流時に保証できる電圧をVOL(max)と呼びます.
VOH(min)は回路出力段の上側のトランジスタがONになったときに出力される電圧です.このトランジスタには「ON抵抗」と呼ばれる抵抗分があります.
トランジスタから流れ出る電流が大きい場合,"トランジスタの抵抗分 x そこに流れる電流"で電圧が発生.すると出力はその電圧分だけ電源電圧から下がってしまいVOHが低くなってしまいます.このため,あらかじめ想定される最大流出電流のときに保証できる最小の電圧がVOH(min)となります.
図4:デジタル信号出力回路(プッシュプル)
図5:HIGH出力電圧は負荷によって変化する
VOLはこの逆となります.回路出力段の下側のトランジスタがONになったとき,流れ込む電流が大きいと,上記と同様にトランジスタのON抵抗によって発生する電圧によって,出力は0Vより上がってしまいます.これを考慮し,あらかじめ想定される最大流入電流のときに保証できる最大の電圧がVOL(max)となります.
図6:LOW出力電圧も負荷によって変化する
入力にはHIGHとLOWを判断するための電圧レベルがあります.VIH(min)とVIL(max)です.電圧がVIH(min)以上であればHIGHと判断され,VIL(max)以下であればLOWと判断されます.
CMOS入力では電源電圧の1/2がHIGHとLOWの基準となりますが,これをそのままVIH(min)とVIL(max)とはしていません.これはチップごとのバラツキなどによって閾値が上下するためです.また,遅く立ち上がる信号に乗ったノイズなどによるグリッチが出力に現れることを軽減するため,入力にはヒステリシスを持たせることが一般的です.このような理由によりVIH(min)とVIL(max)はある程度の電圧差を設けて規定されます.
正常な信号のやり取りを行うには,出力と入力の関係は下式を満たす必要があります.
この関係が守られていれば,出力側の回路は,次の入力側の回路に対してHIGH/LOWを正しく伝えることができます.さらにこの互いの電圧差である「VOH(min) - VIH(min)」や「VIL(max) - VOL(max)」は「ノイズ・マージン」となり,ノイズ耐性を高く保つための目安になります.
図7:VOH(min) / VOL(max) と VIH(min) / VIL(max)
『「VOH(min) > VIH(min)」かつ「VOL(max) < VIL(max)」』の関係が成り立つ場合には基本的には電圧レベル変換は必要ありません.たとえばTTLとLVTTLはそれぞれのチップに使われる電源電圧は違うものの,入出力電圧の規定は同一です.
TTL(5V)とLVTTL(3.3V)ではどちらも,VOH(min)は2.4V,VOL(max)は0.4Vです.VIH(min)/VIL(max)も,どちらも2.0V/0.8Vなので問題なく互いに接続できます.
ただし出力電圧が入力側チップの電源電圧よりも高い場合には注意が必要です.出力側が5V,入力側が3.3V電源を使うチップである場合には,入力側は「5Vトレラント入力」に対応していなければなりません.
5Vトレラント入力とは,5VのHIGH信号を3.3Vの電源電圧で動作するチップの入力に接続しても問題なく動作する入力のことです.一般的なチップの入力には静電気対策のためのESD保護回路が入っていますが,このESD保護回路が次の図のような回路で構成されていると5Vを入力した際に入力から3.3Vの電源に電流が逆流してしまい,チップを破壊してしまうことがあります.このような問題を起こさないための対策が取られた入力が5Vトレラント入力です.トレラント入力にはESD保護がないわけではなく,電源電圧より高い信号が入力されても問題がないような構造を持つESD保護回路が組み込まれています.
図7のようなESD保護ダイオードは,入力側チップの電源が切られている時にも問題を引き起こします.チップごとに個別に電源のON/OFF管理を行うようなシステムの場合,入力側チップがOFFになっているにも関わらず出力側の信号が電源に回り込み,入力側チップを動作させてしまうことがあります.
図7:ESD保護ダイオード - 非トレラント入力
TTLやLVTTLでは電圧レベルが揃っているため上記のような接続が可能ですが,電源電圧の違うCMOSチップ同士や,CMOSとTTLチップの接続では論理レベルが合わない場合が多く発生します.前述の『「VOH(min) > VIH(min)」かつ「VOL(max) < VIL(max)」』の関係が成り立たない,またはその差が小さくなってしまい,ノイズ・マージンが取れないような状況がそれにあたります.
この問題を解決するのが電圧レベル・トランスレータです.
図9:論理レベルが合わない例(1):充分なHIGH電圧が入力されない
図10:論理レベルが合わない例(2):充分なLOW電圧が入力されない
電圧レベル変換チップを用いなくても,簡単に電圧レベル合わせを行う方法はあります.
信号の方向が出力側チップ→入力側チップで固定され切り替わることがないのなら.HIGH側の出力をオープンドレイン出力にすることで,入力側の電圧に合わせる方法です.オープンドレインはデジタル回路の出力段の上側のトランジスタがない構成のもので,入力側チップの電源電圧に接続されたプルアップ抵抗によってHIGHの電圧を得ます.
図11:デジタル信号出力回路(オープンドレイン)
オープンドレインは単純で安価な方法ですが,いくつかの注意点があります.
まず出力側がオープンドレイン出力が可能なものである必要があります.多くのマイコンのGPIOピンなどでは設定によってこの出力が可能です.もしオープンドレイン出力に設定できないプッシュプル出力固定など場合には,外付けのトランジスタなどを使ってオープンドレイン出力に変換する必要があります.
さらにプルアップ抵抗の選択も重要です.
プルアップはHIGHの電圧を得るために必要な抵抗ですが,抵抗値が小さすぎるとLOW出力時に流れる電流が大きく(負荷が大きい状態に)なり,消費電力が増える上にVOLの上昇を招いてしまいます.
逆に大きすぎると配線とピンによる容量の影響を受け,LOWからHIGHへの立ち上がりが遅くなってしまい,通信速度の低下が起こります.
単純な電圧レベル変換であれば標準ロジックを用いる方法もあります.たとえばNexperia社の74AVCH4T245は4ビットの双方向レベル変換を行うことができるCMOS汎用ロジックチップです.
このチップでは0.8V〜3.6Vの信号を変換することができ,信号の方向をDIRピンによって切り替えることもできます.信号速度は変換を行う電圧にも依存しますが,100M〜380Mbps程度に対応可能です.
図12:標準ロジックの例 - 74AVCH4T245
このチップを用いると高速な信号の双方向電圧変換が可能ですが,方向の制御は外部からの信号によって行わなければなりません.このような制御はパラレル・バスのREAD/WRITEのような信号によって可能ですが,プロトコルによって通信方向が切り替わるシリアル・バスのような通信には適用が困難です.
図13:標準ロジックの例.信号の方向を外部から指定しなくてはならない
これまでに紹介した"オープンドレイン出力"や"標準ロジックチップを用いた電圧変換方法"では,主に一方向のみの変換を行うもの,あるいは外部信号による方向の切り替えが必要なものでした.
I²C,I3Cのような信号の方向がダイナミックに変化するような通信には,方向が自動で検出して切り替わる「双方向の電圧レベル変換」が必要です.このような信号の方向を外部から制御するのは難しく,前述のようなバッファ・チップで実現するのは困難です.
さらにI²Cはオープンドレイン信号であるため,オープンドレインの標準ロジック・バッファを互いに違う向きに接続するようなことができません.図14はその例です.オープンドレイン・バッファを互いに反対方向に接続しています.バッファの両側がHIGHの時は問題ありませんが,どちらかが一旦LOWになると,バッファは互いの入力をLOWに引っ張ったままとなり,HIGHに戻すことができなくなります.
図14:通常のオープンドレイン・バッファでは双方向通信を自動切替できない
これまでI²Cの信号電圧変換には,単純な回路が用いられることがありました.その最も簡単なMOSトランジスタを使った方法をその例として挙げます.
図15:MOSトランジスタを使った変換の例
図15はI²Cの仕様書version2.1(2000年)から引用したもので,3.3Vと5Vの信号を2本の信号にそれぞれ1個のMOSトランジスタ(TR1, TR2)を用いる例です.このような単純なトランジスタ単体での変換例は,後述する問題点があるため現在のI²Cの仕様書からは削除されていますが,原理を理解するために紹介します.
SDAとSCLと呼ばれるI²Cの信号線は,どちらもオープンドレイン出力の双方向信号となっています.3.3V側と5V側にそれぞれプルアップ抵抗が接続されています.
この回路では3.3V側,5V側の信号がHIGHである場合,このトランジスタのゲート(g)とソース(s)間は同電位となるため,ソース(s)とドレイン(d)OFF状態となって互いの接続が切れた状態に置かれます.この状態で3.3VがLOWに変化すると,3.3V側のトランジスタ(のsとdの間)がONになり,5V側の信号もLOWになります.
3.3V側がHIGHで5V側がLOWに変化した場合には,まず3.3V側から5V側への寄生ダイオード(ボディ・ダイオード)がONになります.ダイオードがONになるとソース(s)の電圧が降下.その結果トランジスタがONになり,3.3V側の信号もLOWになります.
このようにトランジスタをスイッチとして使う非常に単純な仕組みで電圧レベル変換ができるのですが,ここには問題もあります.トランジスタのバラツキが信号変換の閾値に影響すること.さらに今日ではより低い信号電圧を扱うことが増えてきており,たとえば信号電圧が1V程度では,このような回路では十分なゲート(g)とソース(s)間電圧(Vgs)が得られないため動作させることができません.
「電圧レベル・トランスレータ専用IC」を用いることで,I²C, I3Cのような双方向通信を行うバスの電圧レベル変換を容易に行うことができます.
PCA9306,NVT20xxシリーズ(NVT2001/02, NVT2003/06, NVT2008/10)は双方向信号の変換に特化した電圧レベル・トランスレータです.これらのチップでは複数の信号線(複数ビットの信号線)をまとめて扱うことができます.これらはI²C信号の電圧変換チップとされていますが,信号の仕様が合えば他の目的(SPIやその他のプッシュプル信号など)にも使うことができます.
PCA9306,NVT20xxシリーズは同じ内部構造を持ち,プルアップ抵抗は,変換する電圧差が1V以上であれば電圧の高い側だけに接続すれば良いようになっています.
図16はその内部構造と外部チップの接続を示したものです(アプリケーションノートAN11127:「Bidirectional voltage level translators NVT20xx and PCA9306」のFig.2から抜粋).このチップ内部には信号線数(ビット数)+1個のMOSトランジスタが内蔵されています.各トランジスタはソースとドレインが可換の構造となっています.
信号を伝達するための経路のトランジスタはパス・トランジスタと呼ばれ,残りの1個はリファレンス・トランジスタと呼ばれます.
図16:NVT20xx(PCA9306) - チップ動作の解説図
回路を見てみると,リファレンス・トランジスタのゲートとドレイン間はショートされており,200kΩの抵抗を介して高い電圧側の電源に接続されています.リファレンス・トランジスタの残りの端子:ソースは低電圧側の電源に接続されています.このような接続により,リファレンス・トランジスタは1個のダイオードとなっており,このゲート電圧は低電圧側の電源よりもダイオード1個分高い電圧となります.
残りのパス・トランジスタはドレイン側が高い電圧側の信号線と1kΩのプルアップ抵抗に,ソース側は低い電圧側の信号線,さらにゲートはリファレンス・トランジスタのゲートに接続されています.パス・トランジスタの高い側,低い側の信号がどちらもHIGHになっている時,高い側は1kΩによってプルアップされた電圧となります.
パス・トランジスタはいわゆる「ソースフォロワ」と呼ばれる回路を構成しています.低い電圧側の端子(ソース端子)は,ゲートに印加されている電圧よりトランジスタをONにするために必要なVgs分だけ低い電圧が現れます.つまり低電圧側の電源と同じ電圧となります.トランジスタはONでもOFFでもない半分ONの状態(線形領域での動作)になっています.
この状態で,高または低のどちら側かの信号がLOWになると,ゲートと信号端子の電圧差によりトランジスタがON(完全にONとなった飽和領域での動作)になり,反対側の端子もLOWになります.
このシリーズで扱える信号速度は,プルアップと信号線の容量の影響を受けます.データシートでは,PCA9306は2MHzまで.NVT20xxシリーズでは192Ωのプルアップ抵抗を使用し,容量50pFの条件で最大33MHzまでの信号速度に対応可能とされています.1MHz程度の信号であれば,プルアップ抵抗や容量をあまり気にしなくても(通常I²Cで使うような範囲内を想定)で問題なく動作します.しかしこのチップをプッシュプルのより高速な信号を扱う場合には特製の把握と慎重な部品選択が必要になります.
このタイプの電圧レベル・トランスレータ動作の詳細は,こちらの記事で紹介されています.
高速化を図った双方向オープンドレイン信号変換チップとして,NTS030xシリーズ(NTS0302JK, NTS0304E)を紹介します.
このチップは2ビットまたは4ビットの双方向信号変換を行うことができ,オープンドレイン信号であれば2Mbps(1MHz),プッシュプル信号であれば20Mbps(10MHz)の信号に対応可能です.
図17:NTS030x - チップ内部ブロック図
図17はNTS030xの信号1ビット分の内部構造です.
図ではT3のトランジスタがパス・トランジスタとなっており,ゲート端子バイアス電圧がかけられているので,AとBと書かれた信号のどちらかがLOWとなった時にONとなります.
AとBの両方がHIGHの時はT3がOFFになり,AとBはそれぞれの電源に比較的大きいプルアップ抵抗(10kΩ)で接続されているのでそれぞれの電圧となります.
このチップにはT3のほかにT1とT2が存在しています.このT1とT2は「エッジレート・アクセラレータ」と呼ぶ機能のために使われます.このうちの片方,T1に注目しこの動作を解説します.
T1はA側に置かれ,ソース端子はA信号に,ドレイン端子はA側電源に接続されています.ゲート端子はこれを制御する「ONE-SHOT AND SLEW RATE CONTROL」と書かれたブロックに接続されています.
「ONE-SHOT AND SLEW RATE CONTROL」ブロックは反対側のB信号に接続されていて,B側の信号のLOWからHIGHへの変化を検出.これを検出した時に一時的にT1をONにして,プルアップの10kΩ抵抗をバイパスして電流を流す事により,A側の信号のHIGHへの変化を加速します.このように信号の立ち上がりを速くすることで,より高速な信号を扱うことができるようにしています.
ちなみに,このT1をONにする際のスルーレートは制御されていて,急な電流増加によるリンギング発生を抑えることも考慮されています.
もういっぽうのT2はこの同じ仕組みが逆方向に作られており,B側信号にも適用されるようになっています.
このNTSシリーズにはもう一つの使いやすい点があります.
ここまで説明したMOSトランジスタ単体やPCA9306/NVT20xxの場合,どちらかの電源がOFFになった場合,他方の信号をLOWにしてしまうという問題がありました.NTS030xではこの問題を解決するために,両方の電源がONになっていない場合は,互いに影響が出ないように信号ピンをハイ・インピーダンス状態とするよう動作します.このような機能を使うことにより,システムの電源を部分的にON/OFF制御するような使い方が可能になります.
NTS030xシリーズと同等品で,より高速の信号に対応するためスルーレート制御機能の無いNTS010xシリーズ(NTS0102, NTS0104)も用意されています.
なお,NTS0304Eには,すぐに簡単な動作検証ができるように評価基板:NTS0304EUK-ARDが用意されています.NTS0304EUK-ARD基板の概要と動かし方はこちらの動画「NTS0304EUK-ARDの動かし方」をご参考ください.
さらにこのNTS030xシリーズをプッシュプル信号だけで使う場合のより高速なオプションとしてNTB010xシリーズ(NTB0102, NTB0104)があります.
HIGHまたはLOWで安定した状態では4kΩを通して信号を駆動.NTS030xシリーズ同様のワンショット機能をHIGHとLOW側の両側に持たせ,いずれかの端子で信号の変化があった場合にこれを用いて,反対側信号を変化させる機構を持っています.
このような機構により,信号方向の自動検出機能を持ちながら70〜80Mbpsの速度の信号電圧変換が可能です.
図17:NTB010x - チップ内部ブロック図
I3Cはオープンドレインとプッシュプルを切り替えながら通信を行う仕様を持ち,オープンドレインではI²Cと互換〜4MHzの周波数.プッシュプル時は12.5MHzのクロックが使われます.信号の電圧は通常1V〜3.3Vの範囲で使われるため,電圧差がある場合には,信号仕様に合わせた動作をする電圧レベル・トランスレータが必要になります.
図18はP3A1604の1ビット分の内部ブロック図です.このチップでは図の通り,LOW→HIGHだけでなくHIGH→LOWの変化を加速する仕組みとON/OFFの切り替えができるプルアップ抵抗が内蔵されています.
図18:P3A1604 - チップ内部ブロック図
P3A1604は4ビット用のI3C電圧レベル・トランスレータ.この他にも2ビット用のP3A9606も用意されています.
もう一つの双方向信号の変換方法として,専用品のバッファを使う方法があります.
バッファの本来の目的は,駆動能力の増強や接続している信号線の容量の分離などですが,電圧の変換に対応した製品も存在します.
双方向のオープンドレイン信号を相互にバッファするには,このブログの中で説明したように単純なバッファでは実現できません.そのため双方向オープンドレイン信号用として様々な工夫がされたバッファ製品が用意されています.
バッファについての詳細はまた次の機会に解説する予定です.
電圧レベル・トランスレータは,異なる電源電圧を持つデジタル回路間で安全かつ確実に信号をやり取りするために不可欠な部品です.TTLやLVTTL,CMOSなど論理レベルの規定や,VOH/VOL/VIH/VILの関係を理解することで,適切な接続や変換方法を選択できます.
片方向の変換にはオープンドレイン出力や標準ロジックIC,双方向の変換にはMOSトランジスタや専用IC(PCA9306/NVT/NTS/NTB/P3Aシリーズなど)が利用できます.
特にI²CやI3Cなど双方向通信が必要なバスでは,信号方向の自動検出機能を持つ電圧レベル・トランスレータが有効です.
また,近年の半導体技術の進化により,低電圧化・高速化が進み,より厳密な電圧レベル管理が求められるようになっています.電圧レベル変換の方法や選択肢は多岐にわたりますが,信号仕様や速度,システムの電源管理など用途に応じて最適な方法・部品を選ぶことが重要です.
方式/品番 | 用途 | ビット数 | 方向切替 | オープンドレイン対応 | 低電圧側[V] | 高電圧側[V] | ビットレート[bps] |
オープンドレイン出力での変換 | 汎用 | 1 | 片方向 | - | - | - | - |
標準ロジック(例:74AVCH4T245) | 汎用(パラレルバスなど) | 4 + 4 | 外部制御 | 非対応 | 0.8 ~ 3.6 | 0.8 ~ 3.6 | 100M ~ 380M |
単体MOSトランジスタによる双方向変換 | I²C, 汎用 | 1 | 自動 | 対応 | トランジスタの仕様による | ~ 1M | |
PCA9306 | I²C, 汎用 | 2 | 自動 | 対応 | 1.0 ~ 5.5 | 1.0 ~ 5.5 | 4M (2MHz.条件による) |
NVT2001 | I²C, 汎用 | 1 | 自動 | 対応 | 1.0 ~ 5.5 | 1.0 ~ 5.5 | 4M(2MHz@オープンドレイン), 66M(33MHz@最適化条件による) |
NVT2002 | I²C, 汎用 | 2 | 自動 | 対応 | 1.0 ~ 5.5 | 1.0 ~ 5.5 | 4M(2MHz@オープンドレイン), 66M(33MHz@最適化条件による) |
NVT2003 | I²C, 汎用 | 3 | 自動 | 対応 | 1.0 ~ 5.5 | 1.0 ~ 5.5 | 4M(2MHz@オープンドレイン), 66M(33MHz@最適化条件による) |
NVT2006 | I²C, 汎用 | 6 | 自動 | 対応 | 1.0 ~ 5.5 | 1.0 ~ 5.5 | 4M(2MHz@オープンドレイン), 66M(33MHz@最適化条件による) |
NVT2008 | I²C, 汎用 | 8 | 自動 | 対応 | 1.0 ~ 5.5 | 1.0 ~ 5.5 | 4M(2MHz@オープンドレイン), 66M(33MHz@最適化条件による) |
NVT2010 | I²C, 汎用 | 10 | 自動 | 対応 | 1.0 ~ 5.5 | 1.0 ~ 5.5 | 4M(2MHz@オープンドレイン), 66M(33MHz@最適化条件による) |
NTS0302JK | I²C, SPI, 汎用 | 2 | 自動 | 対応 | 0.95 ~ 3.6 | 1.65 ~ 5.5 | 2M @オープンドレイン, 20M @プッシュプル |
NTS0304E | I²C, SPI, 汎用 | 4 | 自動 | 対応 | 0.95 ~ 3.6 | 1.65 ~ 5.5 | 2M @オープンドレイン, 20M @プッシュプル |
NTS0102 | I²C, SPI, 汎用 | 2 | 自動 | 対応 | 1.65 ~ 3.6 | 2.3 ~ 5.5 | 50M @プッシュプル |
NTS0104 | I²C, SPI, 汎用 | 4 | 自動 | 対応 | 1.65 ~ 3.6 | 2.3 ~ 5.5 | 50M @プッシュプル |
NTB0102 | SPI, 汎用 | 2 | 自動 | 非対応 | 1.2 ~ 3.6 | 1.65 ~ 5.5 | 70M ~ 80M |
NTB0104 | SPI, 汎用 | 4 | 自動 | 非対応 | 1.2 ~ 3.6 | 1.65 ~ 5.5 | 70M ~ 80M |
P3A9606 | I3C, I²C, SPI, 汎用 | 2 | 自動 | 対応 | 0.72 ~ 1.98 | 0.72 ~ 1.98 | (12.5MHz) |
P3A1604 | I3C, I²C, SPI, 汎用 | 4 | 自動 | 対応 | 0.72 ~ 1.98 | 1.62 ~ 3.63 | 6.8M @オープンドレイン, 40M @プッシュプル |
変更履歴:
2025-08-28:初版
2025-08-28:NTS0304EUK-ARDの紹介と動画公開ブログへのリンクを追記
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