NXPの車載向け加速度センサ 基礎編 第四回 ~ASICの基礎~(日本語ブログ)

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NXPの車載向け加速度センサ 基礎編 第四回 ~ASICの基礎~(日本語ブログ)

atsuyoshiyamagu
NXP Employee
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前回はG-cell MEMSの詳細について説明しました。

第四回はこのG-cell MEMSのコンデンサ容量をASICで信号処理する機構について取り上げたいと思います。

 

G-cell MEMSから加速度情報の取り出し

G-cell MEMSから加速度情報をどうやって取り出すのか、これから見ていきましょう。

まずは復習です。前回までのG-cell MEMSの説明で、印可加速度によって可動プレートが動くという話をしました。

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G-cellは可変コンデンサとみなすことができ、可動プレートが動くことによってコンデンサ容量が変わります。この容量値が現時点での加速度というわけです。

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さて、G-cellから信号を取り出すのはASICの役割です。

ASICとはApplication Specific Integrated Circuitの略で、ここで使用するのはMEMSの制御と計測データの信号処理に特化した半導体集積回路です。

 

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上の図のようにG-cellからの出力を順次信号処理してゆき、MCU(マイコン)で取り扱いし易いデータの形にしてゆきます。

1. Integrator C-V変換

・C-V (Capacitance to Voltage)変換ブロックでは、G-cell(コンデンサ)の容量値(=加速度値)を電圧値に変換する機能を持ちます。

・古い製品ではアナログ値のまま補正処理を行っていたのですが、最近ではDigital演算による精度の高い補正処理を行えるようにしています。このため電圧値に対して、積分器を組み合わせたA-D (Analog to Digital)変換器によって、Digital値に変換しています。ASICの入り口の部分なので、フロント・エンドとも呼んでいます。

2. Gain ・加速度値を増幅し、後の段での補正処理をしやすくしています。
3. Filter ・バンド・パス・フィルタにて、不要な信号成分およびノイズを除去しています。
4. Temp Comp & Gain

・デバイスの温度変化によって検出値に誤差が出てきてしまいますので、これを補正します。

・また、様々な要因によって印可加速度と検知加速度がリニアに対応しません。これをリニアになるように補正します。

・さらにアプリケーションに応じて出力値の分解能を調整します。

5. 出力 ここまでの処理によって、きれいな加速度値が得られました。最後はこれをSPIなどの通信インターフェースに合った形にしてデバイスから出力されます。



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ここからはそれぞれのブロックについて少し細かく説明します。

まずは一番左の入り口の部分(フロント・エンドと呼びます)から説明します。

 

Front End

Integrator C-V変換

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上の図にG-cell MEMSに起こる作用を示しました。

ここで、ASICの制御によって、このG-cell可変コンデンサに充電と放電が行われます。

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この充放電はスイッチト・キャパシタ回路と呼ばれる機能によって行われるものです。

充電用のスイッチと放電用のスイッチがあり、常に片方がOpen、もう片方がCloseとなります。このスイッチを高速で切り替え、電荷を出力してくれます。

これを積分することで、加速度相当の電圧値が得られます。

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上図はNXLS9XXXシリーズのデータシートから抜粋したものですが、C-V変換と書いている部分までの処理がG-cellの容量を電圧に変換するまで操作に当たります。

そのまま電圧値として出力しても良いのですが、補正をかけてより精度を上げた計測値にすることが望まれます。

古いセンサではアナログ回路にて補正していましたが、現在はディジタル処理が主流です。このため、いったんA-D変換してから補正をかけます。

NXLS9XXXシリーズではシグマ・デルタ(デルタ・シグマとも)型A-D変換器を使用しています。

シグマ・デルタ型ADCのメリットはいくつかありますが、特にオーバーサンプリングによるアンチエイリアス性や分解能の向上が重要です。

ここまでのC-V変換とA-D変換までをModulatorと呼んでいます。

ディジタル値で加速度値が得られたので、誤差の補正やフィルタ処理、アプリケーションに合わせた出力形式への変更がやり易くなりました。

 

Back End

続きまして、補正処理について説明します。

本来ならば「1G」が印可されれば「1G」の計測出力を出して欲しいのですが、実際には様々な要因によって例えば「0.9G」といったズレた値が出てしまいます。これを補正して、1Gを出すようにする必要があります。

 

オフセットと感度

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加速度センサの出力特性で特に重要なのがオフセットと感度の精度です。

  • オフセット誤差はバイアスとか偏差とも呼ばれ、印可加速度より大きめ、あるいは小さ目の値が出てしまうというものです。
  • 感度はスケールファクターとも呼ばれ、「印可加速度と出力加速度値の傾き」です。

 

平均化

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ノイズによって本来の値より大きめ、あるいは小さ目の値が出てしまう場合、平均化処理によりそのバラツキを打ち消しあって、本来の値を得ることができます。

ただし、複数のサンプルを得る必要があり、時間を要してしまうという弱点があります。高速演算により対処される場合が多いです。

 

非線形成

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印可加速度と検知加速度がリニアに対応しない、というものです。

主にG-cell MEMSの特性(歪み、形状)に由来することが多いです。

ASIC内部に加速度値と補正値のデータベースを持っており、これにより補正します。

 

温度補正

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デバイスの温度が変わると、出力特性が変わることがあります。

特に温度変化によって加速度センサを構成する部材が伸び縮みし、G-Cell MEMSが変形することでこの影響が出てきます。

ASIC内部に温度センサを内蔵しており、現在の温度と補正値のデータベースを参照して補正することができます。

 

Output Scaling

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ユーザの使い方によっては、

  a) 加速度の検知レンジ幅が広い方が好ましい場合

  b) 分解能が高い方が好ましい場合

といったように、加速度検知レンジに求めるモノが違うことがあります。

上の図では、左はa)の使い方で、120Gのときに2047LSBが出力されるようにしており、できるだけ大きな印可加速度も計測できるようにしています。

一方、右の図ではb)の使い方で、80Gのときに2047LSBが出力されるようにしており、できるだけ微小な印可加速度の違いが分かるようにしています。

このように用途に応じて加速度値の割り当てを変えることをスケーリングと呼んでいます。

ASICの中では単純なビットシフトにより実現しています。

 

出力形式

ここまでの補正処理によって精度を上げた加速度検出値は、ユーザの使用するMCUとの親和性に合わせた通信インターフェースで出力されます。Auto用加速度センサで主に用いられているのは下記の通信方式です。

MCU(マイコン)と直結する場合

2008年頃まではアナログ出力を好まれるユーザが多かったのですが、徐々にディジタル出力が主流になってきました。ディジタル出力は、Auto用がSPI、Consumer用ではI2Cが好まれています。

  • アナログ電圧値
  • SPI
  • I2C

NXPの製品によっては、通信方式をユーザの設定によりその場で切り替えることができるものもあります。

 

MCUと離れた場所にセンサを配置する場合

車の衝突検知用に加速度センサを用いる場合、センサをドアやバンパーといった場所に設置してすぐさま衝撃を検知できるようにしています。一方、その計測結果を得るMCUは200Gといった衝撃に耐えられないので、比較的安全な車の真ん中の方に配置されるので、センサとMCUが離れて設置されることになります。これほど離れてしまうと、SPIやI2Cではノイズなどの耐性の問題で、安全に通信できません。かといってCAN(Controller Area Network)では高級すぎます。また、長い配線を車内で引き回すことになるため、配線重量も無視できません。このため衝突検知にはそれに特化した通信方式が開発されています。

  • DSI3
  • PSI5

NXPは両方の仕様策定グループに所属しています。こちらもNXPの製品によっては、通信方式をユーザの設定によりその場で切り替えることができるものもあります。

 

ARM

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エアバッグの誤爆というのは乗員の負傷の恐れもあり、大きな問題です。

通常、MCUにて加速度センサからの計測値を元に、エアバッグを展開すべきかどうか判定を行います。

これに加えて、加速度センサ自身にも衝突判定をする機能を搭載し、MCUでの判定結果と加速度センサからの判定結果を比較することにより、より確度の高い衝突判定ができるようになります(冗長化)。

この加速度センサ自身で衝突判定をする安全機能をARM(準備完了! といったニュアンス)と呼んでいます。

 

One Time Programming (OTP)によるオプション設定

ASICには一回だけ書き込み可能な(不揮発性)メモリ領域があり、管理情報や設定を書き込むことができます。

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従来はフューズアレーに高電圧をかけてフューズを切り、設定を書き込む方式が使われていました。

現在はFlashに設定を書き込み、上書き禁止のロックを掛けておく手法が主流です。

 

ミラーレジスタ

加速度センサは起動時にOTPメモリの内容をミラーレジスタ(RAMです)にコピーし、このミラーレジスタの値を参照して加速度値の補正処理や機能設定が行われます。

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ユーザにて開発時に機能を試したい場合など、もしOTPメモリの内容と異なる設定で動かしたいときにミラーレジスタの内容を書き換えることで、一時的に任意の設定に変えることが可能です。

ただし、一度電源を切ると初期設定、つまりOTPレジスタの設定に戻ります。

 

 

以上、加速度センサのASICについて説明して参りました。

次回はパッケージ・組付けについて取り上げたいと思います。

 

参考情報

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