NXPの車載向け加速度センサ 基礎編 第三回 ~G-cell MEMS 詳細~(日本語ブログ)

キャンセル
次の結果を表示 
表示  限定  | 次の代わりに検索 
もしかして: 

NXPの車載向け加速度センサ 基礎編 第三回 ~G-cell MEMS 詳細~(日本語ブログ)

atsuyoshiyamagu
NXP Employee
NXP Employee
1 0 882

前回はG-cell MEMSの概要について説明しました。

第三回はG-cell MEMSの出力特性や特殊機能などについて取り上げます。

今回の内容は少々込み入ったベテラン向けの内容になりますので、ご興味の無い方は飛ばしていただいても構いません。

 

感度特性

加速度の出力値がどういったものになるのか、これから見ていきましょう。

加速度センサでは印可加速度と出力値の比を感度と呼びます。これには、

・m/s² /V

・mg/LSB

といった単位が用いられています。

横軸を印可加速度、縦軸を検出値としたグラフでは、感度は傾きとして現れます。

 

レシオメトリック

少し古いタイプの加速度センサは、下の図のようにセンサへの給電電圧に応じて傾きが変わります。

これをレシオメトリックと呼びます。

レシオメトリック.jpg

図からわかるように、給電電圧が高い方が感度が高くなります。

(ただ、最近はレギュレータを内蔵し、電源電圧が違っても出力特性が変わらない製品が主力になってきています。) 

 

Sensitivity.jpg

上の図はLow-Gにカテゴライズされる加速度センサMMA1260の例です。20年ほど前の古い製品で現在は販売しておりませんが、アナログ出力のセンサーの動きを理解するには分かりやすい製品です。

このセンサは加速度に応じた電圧が出力され、5V電源ならば0G(無重力)は2.5V、通常の1Gは3.7Vが出力されます。

センサを徐々に傾けてゆくと、左下のグラフのように正弦曲線を描くことが分かります。

例えば自動車に搭載すると、出力加速度値から、車体がどれだけ傾いているのかが分かります。

これを応用して、自動車の横転検知に用いられています。

 

衝撃耐性とスティクション

皆さんはTVゲームで、負けた腹いせにゲームパッドを放り投げたことはありませんか?

Stiction.jpeg

ゲームパッドにも加速度センサは搭載されています。そして、加速度センサは通常の使用範囲よりも遥かに大きな衝撃を加えられる事があることも、最初から想定されています。

例えばFXLS89xxシリーズは16Gまでの検知範囲ですが、2000Gまでの衝撃耐性を保証されています。

 

加速度センサが大きな衝撃を受けた際、最も脆弱なのはG-cell MEMS部です。

デバイスが受けた衝撃で、可動プレートが通常よりも勢いよく動き、最悪は壁に衝突します。

特にLow-Gセンサは少しの加速度でも可動プレートが動きやすいよう、バネがMed-GやHigh-Gセンサよりも柔らかく出来ているがゆえに、衝撃に弱いと言えます。それではどのような対策がされているのでしょうか?

 

Low-Gセンサは本来地球の重力1Gの測定を想定したセンサですが、例えば車の衝突事故発生時には300Gといったケタ違いの衝撃が印可されます。このとき、MEMS内部では可動プレート(可動マスとも)が動くのですが、通常の移動範囲を超えて動き、最悪は壁に衝突します。

壁に触るまでに必要な加速度(つまりマージン)をClipping Limitと呼びます。Clipping Limitを大きくするには主に3つの手法が考えられます。

  1. 壁までの距離を長くする(ただし、G-cellが大きくなる)
  2. バネを固くする(ただし、感度が低くなる)
  3. 可動プレートを大きく重くする

1番と2番の手法は大きな問題があり、NXPは3番の手法を採用しています。この効果は、

  • 可動プレートの移動量を減らし、衝突しにくくする
  • 可動プレートが頑丈になり、衝突しても破損しない

というものです。

HARMEMS01.jpg

ところで、大きな衝撃時には可動プレートが壁に衝突し、その勢いで跳ね返ります。

しかし、ほどほどの衝撃では跳ね返らず、そのまま壁に貼りつくことがあります。これをスティクションと呼びます。これはMEMS式加速度センサ特有の問題で、しかも軽く叩けば復帰する程度の症状です。

主な原因は下記で、NXPではそれぞれの要因に対して対策しています。

  1. 機械的要因:接触面の表面形状による引っ掛かり
  2. 電気的要因:静電気による吸いつき
  3. 化学的要因:親水結合

 

セルフテスト

G-cell MEMSが正常に動作するかチェックする機能がセルフテストです。

加速度センサが運用時に故障してしまった際、様々な要因が考えられるわけですが、G-cell MEMSの故障が要因になることもあります。例えばスティクションやMEMSの破損などによって、可動プレートが正常に動作しないという故障が発生することがあります。

そういった場合、セルフテストによって原因がMEMS側の故障なのか、その他の要因なのか切り分けることができます。

Self_Test.jpg

上の図はZ軸加速度センサですが、中央の可動プレートがスティクションを起こしています。

このセンサには通常の電極だけでなく、セルフテスト用の電極が設けられています。

通常は、加速度の印可によって可動プレートが動くわけですが、セルフテスト時にはこのセルフテスト用電極に電圧を掛けます。そうすると静電気力によって可動プレートが吸い寄せられて動きます。

セルフテスト用電極に掛けた電圧に応じた量だけ可動プレートが動き、通常電極には加速度値が出てくることになります。最初からセルフテスト時に出てくる加速度値は分かっているので、実際の計測値とずれていたらG-cell MEMSの故障が疑われるというわけです。

 

オーバーダンピング(過制動)

加速度がG-cellに印可されると可動プレートが動きますが、重い可動プレート自身やバネ、空気抵抗によってブレーキが掛かり、加速度に相当する位置で止まります。この移動量xは下の式で表されます:

atsuyoshiyamagu_0-1751013025673.png

なにやら複雑な式ですが、グラフの形で見てみると分かりやすくなります。

横軸を経過時間で、縦軸を可動プレートの移動距離のグラフとします。

atsuyoshiyamagu_1-1751013149088.png

加速度が加わると可動プレートが移動し始め、やがて加速度に相当する位置(青い点線)のところで止まります。

ただ、抵抗係数gと振動周期w0の関係により、3つのパターンが想定されます。

本来は(2)の臨界制動が理想的で、最も短時間で加速度の位置で可動プレートが静止します。

とはいえ、実際には製造バラツキなどにより、(1)や(3)の方に偏りがちです。

 (3)は柔らかすぎるバネなど、抵抗が弱いせいで、なかなか可動プレートが静止してくれません。

 (1)は逆に抵抗が強すぎる(オーバーダンプと呼びます)場合で、こちらも理想状態よりも可動プレートが静止位置まで移動するのに時間を要します。

「どちらの方がよりマシか」という話になりますが、実際にはFail-Safeの考え方から、(1)のオーバーダンプ型を好まれるお客様が多いです。

というのは、印可加速度には周波数成分(=振動)が含まれるため、(3)の場合は共振を起こしやすいという問題があるからです。共振が酷くなると、可動プレートが大きく動いて壁にぶつかりやすくなり、破損の危険性が増してしまいます。

(1)であれば、MEMS自体が機械的なLow-Pass-Filterとして作用し、振動成分を吸収して共振を防いでくれるので、ベターな選択と言えます。

 

 

以上、G-cell MEMSの詳細について説明して参りました。

次回はこのG-cell MEMSのコンデンサ容量をASICで信号処理する機構について取り上げたいと思います。

 

参考情報

=========================

本投稿の「Comment」欄にコメントをいただいても、現在返信に対応しておりません。

お手数をおかけしますが、お問い合わせの際には、NXP代理店、もしくはNXPまでお問い合わせください。