こんにちは!
電気自動車(EV)がスーッと滑らかに発進したり、高性能なエアコンが驚くほど静かに運転したり。その裏側では、マイコンが超高速で複雑な計算を行い、モーターを巧みに操っています。
今回は、その制御技術の心臓部、「ベクトル制御」で活躍する二人の偉大な専門家(の名前がついた変換)、「クラーク変換」 と 「パーク変換」 の謎を、下のGIFアニメーションと共に解き明かしていきましょう!

まず、一番上の段。これはモーターを動かすための基本エネルギー、「三相交流」の世界です。
右のグラフ(Three-Phase Sine Waves): A相, B相, C相という3つの波が、絶えず大きさと向きを変えながら流れています。この3つの波は互いに連携していますが、このままでは「今、モーターにどれくらいの力を加えるべきか」を直感的に判断するのは至難の業。まるで、3人の奏者がそれぞれ違う楽譜で演奏しているのを、同時に指揮するようなものです。
左のグラフ(Rotating Vector): しかし、この3つの波の力を合成すると、面白いことが起こります。大きさが一定のまま、クルクルと滑らかに回転する一つの力(回転ベクトル)が生まれるのです。物理的には、これがステータコイルが作り出す「回転磁界」そのもの。この回転する磁界こそが、ロータの磁石を引っ張ってモーターを回す力の源です。
課題: この「常に変化する3つの波」を、どうやってマイコンで簡単に、そして正確にコントロールすれば良いのでしょうか?
最初の魔法が「クラーク変換」です。これは、複雑な3次元の世界を、もっと分かりやすい2次元の世界に描き直す作業です。
計算式は以下のようになります。
texclip20251021155548.png
右のグラフ(Two-Phase Sine Waves α-β): 見てください!3本あった波が、α(アルファ)とβ(ベータ)という2本の波に集約されました。まだ波の形(交流)はしていますが、変数が一つ減って、だいぶ見通しが良くなりました。
左のグラフ(Clarke Transformation α-β): これは、3つの軸(A, B, C)で見ていた回転ベクトルを、直角に交わる2つの軸(α, β)で見た世界です。ちょうど、斜めから見ていた立体を、真上から見た平面図にしたようなイメージ。回転ベクトル自体は、何も変わらず同じように回転しています。
【クラーク変換のポイント】
情報を一切失うことなく、3相という少し扱いにくい座標系から、数学で馴染み深い直交座標(α-β静止座標系)に変換し、問題をシンプルにしました。
αとβの値もまだ波のように変化しており、これを追いかけるのは大変です。そこで登場するのが、ベクトル制御の真髄、「パーク変換」です!
計算式は以下のようになります。
texclip20251021155429.png
これは、「静止した地面(α-β座標)から回転ベクトルを眺めるのをやめて、いっそのこと回転ベクトルと同じ速度で回るメリーゴーラウンドに飛び乗ってしまおう!」 という、まさに発想の大転換です。この新しい回転する座標を「d-q回転座標系」と呼びます。
右のグラフ(Two-Phase Value d-q): 驚くべき結果です!あれほど激しく変化していた2つの波が、dとqという**ほぼ一定の値(直流)**に変わりました!
左のグラフ(Park Transformation d-q): d-q座標が、回転ベクトルと完全に同期して一緒に回転しているのが分かります。あなたがメリーゴーラウンドに乗っている馬の真横に立てば、その馬はあなたに対して静止して見えますよね?それと全く同じ原理です。回転している側から見れば、回転しているものは止まって見えるのです。
【パーク変換のポイント】
回転ベクトルと同じ速度で回転する座標系(d-q座標)から観測することで、交流の値を直流の値として扱うことができるようになります。
この二段階の変換を経て、私たちはとてつもないメリットを手にします。それは 「制御の圧倒的な単純化」 です。
常に変化する交流値を制御するのは難しいですが、直流値ならどうでしょう?目標値より高ければ下げる、低ければ上げる。小学生でも分かるこの単純な操作(PID制御)で、モーターを完璧にコントロールできるようになるのです。
そして、dとqの直流値には、それぞれ重要な物理的な意味が割り当てられています。
q軸の値 (Quadrature-axis): モーターの**トルク(回転する力)**を直接コントロールします。EVのアクセルを踏んだ時にグッと加速するのは、マイコンがこのq軸の目標値を上げているからです。まさに「力のダイヤル」です。
d軸の値 (Direct-axis): モーターの**磁束(磁石の強さ)**をコントロールします。永久磁石モータの場合、ロータの磁石の強さは一定なので、基本的にはこのd軸の電流はゼロになるように制御するのが最も効率的です。まさに「効率のダイヤル」です。
つまり、クラーク変換とパーク変換は、本来ごちゃ混ぜになっているモーターの「力」と「効率」の要素を、2つの独立した直流のダイヤル(dとq)に分離してくれる魔法なのです。
この一連の華麗な数学的処理こそが、現代の高性能モーターを支える「ベクトル制御」の根幹です。この魔法があるからこそ、私たちはパワフルで静かで、省エネなモーターの恩恵を存分に受けることができるのですね。
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【基礎編④】実践!ベクトル制御の仕組みをブロック図で見てみよう!
具体的なセットアップ方法やサンプルコードの動かし方についての解説はこちら↓
【NXPマイコン入門】【モータ制御】【実践編①】永久磁石同期モータの仕組みと制御方法(日本語ブログ)
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NXPのFRDMボード「FRDM-MCXA156」を使用して、モーター制御について分かりやすく解説していきます。基礎編と実践編に分かれていますので、興味のある内容から参考いただければ幸いです。
・基礎編①~⑦、実践編①~③
今回は基礎編③として、NXPマイコンで、永久磁石同期モータの仕組みと制御方法について解説します。