「スマホをポケットに入れたままドアが開く」「部屋に入ったら自動で照明がつく」「ソファに座った瞬間、サウンドバーが自分の位置に合わせて音場を自動調整してくれる」── こんな体験を実現できるデバイスが NXP Trimension® SR250 です。
SR250は、超高精度な無線測距技術「UWB (Ultra-Wideband:超広帯域無線)」と、相手デバイスなしで人や物体を感知できる「UWBレーダー」を、IoT向けとして世界初となるオンチップ処理付きで1チップに統合したICです。
そんな様々な可能性を秘めたこのSR250が、2026年3月、ついにマスマーケット向けリリースされました!評価ボード SR250UWBSHIELD が NXPのeコマースで購入できます。
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「面白そうだけど、難しそうかな?」と思っていたあなた、今が試してみるチャンスです。
第1回はUWBとはそもそも何かという基礎から、SR250の特徴までをお届けします。本稿を読んで想像をふくらませ、ぜひ評価ボードを入手して一緒にUWBを体験しましょう!
「UWBって、昔の高速データ転送技術では?」と思った方、鋭いです!
2000年代初頭、UWBは高速ワイヤレスデータ転送技術として大きな注目を集めました。WiMediaアライアンスが標準化を進めましたが、Wi-FiやBluetoothの急速な進化に押され、普及しないまま終わりました。
ところが2010年代後半、UWBは全く別の顔で復活します。精密測距・測位の技術として再定義され、IEEE 802.15.4zとして標準化。2019年 iPhone 11への搭載を機に、一気に注目度が高まりました。
UWBが広い帯域幅を持つという本質は変わっていません。ただ、その特性を「通信速度」ではなく「時間分解能」として使うことで、まったく新しい用途が生まれたのです。
UWB (Ultra-Wideband) は、名前の通り周波数軸で見れば超広帯域、逆に時間軸で見ると非常に短いパルス信号を使った無線技術です。IEEE 802.15.4z規格として標準化されており、近距離高精度測位の分野で今まさに急速に普及しています。
Wi-FiやBluetoothの位置精度が±1〜2mであるのに対して、UWBは±5〜10cmのセンチメートル精度を実現できます。これは「どこかにいる」ではなく「ここにいる」を検知できる技術です。
このセンチメートル精度と高いセキュリティの組み合わせが、スマートカーアクセスや精密な屋内測位を可能にしています。Androidスマートフォン・AirTagに加え、*Google Pixel Tagへの搭載も発表され、今後さらなる普及が期待されています。
*Google Pixel Tagは2026年11月発売予定
電波は光のように直進するだけでなく、壁・天井・家具などに反射しながら伝わります。受信側には「直進してきた電波」と「あちこちで反射してから届いた電波」が混ざって届きます。これがマルチパスです。特に屋内では反射が多く、マルチパスの環境となります。
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BLEやWi-FiのようなRSSI (受信強度) ベースの測距は、この「混ざった電波の強さ」を使って距離を推定するため、反射波に大きく左右されてしまいます。
UWBは非常に短いパルス信号 (数ナノ秒幅) を使っているため、直接届いた信号と反射して後から届いた信号を時間的に分離して識別できます。
UWBは、 STS (Scrambled Timestamp Sequence:スクランブルされたタイムスタンプシーケンス) と呼ばれる暗号化された信号列を使用しています。STSはAES-128ベースの乱数生成器によって毎回異なる値が生成されます。受信側は事前に共有した鍵から同じSTSを計算し、受信値と照合することで、正規の送信元かどうかを検証します。
STSは毎回異なる値が生成されるため、傍受した信号をそのまま再送したり(リプレイアタック)、中継・偽装して距離を誤認識させたりする攻撃が成立しません。さらにセキュアレンジングでは、STS生成に使うセッション鍵をセキュアな環境で管理し、定期的に再計算します。仮に特定時点の鍵情報が漏洩しても被害範囲を限定できます。これらにより、UWBはBLEやWi-Fiベースのレンジングよりも強固なセキュリティを実現しています。
| 技術 | 精度 | マルチパス耐性 | セキュリティ | 主な用途 |
| UWB | ±5~10 cm | 高 (パルスで直接波を分離) | 高 (STS暗号化) | 精密測位・スマートアクセス |
| BLE Channel Sounding | ±0.5 m | 中 (位相測定で改善) | 中 (RTT+位相で保護) | スマートアクセス・IoT |
| Wi-Fi RTT (FTM) | ±1〜2 m | 低〜中 | 低 | 屋内ナビ・フロア判定 |
| BLE RSSI | ±1〜5 m | 低 (強度ベース) | 低 | 近接検知・ビーコン |
BLE Channel Soundingなど他技術はコスト・消費電力面での利点もあるため、用途に応じた使い分けやUWBとのハイブリッド構成も増えています。
TWR (Two Way Ranging) では、InitiatorがパルスをResponderに送り、Responderが折り返すことで、Initiatorが電波の往復時間を計測し距離を算出します。電波は光速で伝わるため、わずかな時間誤差が距離誤差に直結します。広帯域であるほど時間分解能が上がり、距離精度が向上するのです。
また、複数デバイスを組み合わせたTDOA (Time Difference of Arrival) にも対応しており、広いエリアのリアルタイム測位も可能です。
複数のアンテナで受信した信号の位相差(PDOA, Phase Difference of Arrival)から、デバイスが存在する角度を算出します。SR250は3つの受信ポートを持つため、水平方向と垂直方向を同時に算出する3シングルショット3D AoA が可能です。
測距 (Ranging) は2台のUWBデバイスが通信し合うことで距離を測りますが、レーダーはまったく異なるアプローチをとります。送信したパルスが人や物体に当たって反射してくる信号を解析することで、相手がUWBデバイスを持っていなくても距離・方向・存在を検知できるのです。
UWBレーダーは人体のわずかな動きを捉えることができ、プライバシーを守りながら「その場に人がいるか」「動いているか」を感知できます。
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レーダーのアルゴリズムは複雑で、独自に構築するのは容易ではありません。SR250は、単一ターゲットの存在・距離・角度検知まではオンチップで処理できるよう設計されており、アルゴリズム開発無しでレーダー機能を使うことができます。もっと複雑なレーダー処理をしたい場合は、反射はデータをホストに送ることでAI/MLを使用した応用も可能です。
測距とレーダーを1チップに統合したSR250は、スマートロック・スマートスピーカーといった民生機器から、工場・倉庫でのAGV (無人搬送車) やフォークリフトと作業者の衝突防止といった産業用途まで、幅広い分野での活用が期待されています。
「位置を知る」「存在を知る」「動きを知る」─ この3つがカメラなしでできるとしたら、どんな機器が作れるでしょうか。ぜひ想像しながら連載を読み進めてください。
本連載は全4回を予定しています。
| 第1回(本記事) | UWBの基礎とSR250の概要 |
| 第2回 | SR250評価ボード (SR250UWBSHIELD) のセットアップ |
| 第3回 | UWB測距 (Ranging) を試してみる |
| 第4回 | UWBレーダー (Radar)を試してみる |
次回は評価ボードの入手方法・ハードウェア・ソフトウェア環境の構築を解説します。UWBを動かす準備を一緒に整えましょう!
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センチメートル精度の測距と、相手デバイス不要のUWBレーダーを1チップに統合したNXP Trimension® SR250が、2026年3月にマスマーケット向けにリリースされました。本記事では、UWBの基礎原理からSR250の特徴を解説します。
(読了:10分)