本記事では、広く利用されている以下の3つのプロトコルにフォーカスし、それぞれの技術構造と設計思想の違いを分かりやすく解説します。
(※評価・実装方法については別の記事で解説予定です)
産業用Ethernetでは、このOSI各層をベースとしつつ、プロトコルごとに特定の層を拡張・最適化することで、リアルタイム性や信頼性を実現しています。
産業用EthernetにおけるOSI参照モデル:
| 階層 | 名称 | 産業用Ethernetの役割 |
| 7 | アプリケーション | 通信データの内容(装置制御、ステータス、設定) |
| 6 | プレゼンテーション | データのエンコード、圧縮、暗号化 |
| 5 | セッション | 通信の確立、維持、終了 |
| 4 | トランスポート | 通信の品質管理(TCP/UDP)、データ到達保証 |
| 3 | ネットワーク | IPアドレスによるルーティング(パケット宛先決定) |
| 2 | データリンク | MACアドレスによるデータ配送、Ethernetフレームの作成 |
| 1 | 物理 | ケーブル(Cat5e/6など)、コネクタ、物理信号の送信 |
産業用Ethernet のプロトコルごとに使用する層:
各Ethernetプロトコルの特徴:
| プロトコル | 階層 | 特徴 |
| EtherCAT | 2 | IPを使わず高速化 |
| PROFINET | RT/IRT がL2 NRTがL3/4 |
RT/IRTで使い分け |
| EtherNet/IP | 3/4 | 標準Ethernetベース |
この特徴の違いが、そのまま以下に直結します。
メイン・デバイス(コントローラ):
ネットワーク全体を制御する中心的な役割を担います。
代表例: PLC、産業用PC
サブ・デバイス(デバイス):
代表例:センサ、サーボ、アクチュエータ
一度接続が確立されると、MainDevice と SubDevice の間では、非常に短い周期で I/O データが連続的に交換されます。この通信は、用途に応じて「周期通信」と「非周期通信」に分けられます。
Cyclic通信(周期通信)
用途:リアルタイム制御用
・モータ制御や I/O 制御など、リアルタイム性が求められる場面で不可欠
Acyclic通信(非周期通信)
用途:設定・診断・イベント用
・設定データの読み書きや診断情報、予期しないイベントの通知などに使用
産業システムでは、「すべてのデバイスが同一の時間基準で動作すること」が非常に重要です。
例えば、下図のように複数のデバイスがそれぞれ Δt₁、Δt₂、Δt₃ と異なるタイミングでデータを取得している場合、コントローラ(PLC)が受け取る情報は、同一時刻のデータではなく、時間的にずれた「バラバラのスナップショット」となります。
その結果:
といった問題につながります。
そのため、Industrial Ethernet では各デバイス間でクロックを同期させる仕組みが非常に重要な要素となります。
| EtherCAT | PROFINET | EtherNet/IP | |
| 運営組織 | Bechoff / ETG (EtherCAT Technology Group) |
Siemens / PNO (PROFIBUS & PROFINET International) |
Rockwell / OVDA (Open Device Net Vendors Association) |
| 通信方式 | Summation frame (フレームを通過しながらSubDeviceがデータを読み書き) | Layer 2ベースのリアルタイム通信 (RT/IRT) | CIP : Explicit(TCP) / Implicit(UDP) 通信モデル |
| 主要用途 | モーション制御、超高速制御 | 汎用FA、工程制御、広範な産業用途 | 工場自動化、PLCネットワーク、ロボット |
| サイクルタイム | ~31.25μsレベル(実装依存、非常に高速) | RT: 数ms IRT: 31.25μs(実装依存、TSN/IRT) |
一般的に10msレベル(UDPベース) |
| 同期方式 | Distributed Clock (DC) | IRT : 高精度同期 (PTCP) | CIP Sync (IEEE1588) |
| デバイスモデル | PDO / SDO (CANopen over EtherCAT) | Slot / Subslot (GSDML) | Class / Instance / Attribute Object Model |
| トポロジ | ライン、ツリー、リング(低遅延) | ライン、スター、リング(MRP/MRPD) | ライン、スター、リング(DLR) |
| 利点 | とにかく高速・低遅延 / ハードウェアでの処理 | 様々なクラスと診断機能、高い相互運用性 | 標準Ethernetインフラで広く利用、理解しやすい |
ここからは、それぞれの技術的特徴を解説していきます。
■ ネットワーク構成
図:EtherCATネットワーク構成イメージ
EtherCATの最大の特徴が「オンザフライ処理」です。1つのフレームが全デバイスを通過しながら処理され、各デバイスは通過中にデータを読み書きします。専用ハードウェア(ESC)によりCPUを介さず処理されるため、極めて低遅延を実現します。
図:EtherCATネットワーク転送イメージ
■ 関連プロトコル変換:EtherCAT (IEC 61784-2-12)
・CoE (CAN over EtherCAT) : CANopen 通信を EtherCAT のフレーム上でトンネリングして使えるようにしたもの
・FoE (File over EtherCAT) : EtherCAT 経由でファイル転送を行うプロトコル
・EoE (Ethernet over EtherCAT) : 通常の Ethernet フレーム(TCP/IP など)をカプセル化して流す仕組み。
図:マスタデバイス(MDevice)によるEoEプロトコル変換
■ ネットワーク構成
CC‑A:基本的なリアルタイム、すべてのIT サービス(例 TCP/IP)は制限なく使用
CC‑B:ネットワーク診断などを追加し、一般 FA の RTに
CC‑C(IRT):31.25μs クラスのモーション用途
■ 通信タイプ
→高い柔軟性・詳細な診断・高い相互運用性を実現
■ ネットワーク構成
メインデバイス→ Scanner:コントローラとして機能し、通常はリクエストを開始
サブデバイス→Adapter:そのリクエストに応答するデバイス
■ EtherNet/IP の特徴「オブジェクト指向モデル」
各デバイスは「Class」「Instance」「Attribute」「Service」から構成されるオブジェクトの集合体として定義されます。
これにより、装置の機能が非常に明快に構造化され、メーカーを超えて高い互換性を実現できます。
■ 通信タイプ
Explicit Messaging Connection(明示的通信)
Implicit Messaging- I/O Connection(暗黙的通信)
産業用Ethernetは単なる通信ではなく、「リアルタイム制御を成立させるためのシステム技術」です。今回紹介した3つのプロトコルは、それぞれ異なるアプローチでそれを実現しています。
| プロトコル | 設計思想 | 主な用途 |
| EtherCAT | 高速・低遅延 | モーション制御 |
| PROFINET | 柔軟性・統合 | 汎用FA |
| EtherNet/IP | IT統合 | PLCネットワーク |
今後のトレンドとして、産業ネットワークは次の方向へ進みます。
つまり 「リアルタイム × IT統合 × セキュリティ」の融合が鍵となります。
次回は、
について解説していきます。
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本記事では、広く利用されている以下の3つのプロトコルにフォーカスし、それぞれの技術構造と設計思想の違いを分かりやすく解説します。
(※評価・実装方法については別の記事で解説予定です)
(読了時間:15分)