2368149_ja-JP

キャンセル
次の結果を表示 
表示  限定  | 次の代わりに検索 
もしかして: 

2368149_ja-JP

2368149_ja-JP

産業用Ethernetプロトコルとは? EtherCAT、PROFINET、EtherNet/IPについて解説 (日本語ブログ)

目次



はじめに

 
 産業機器における通信は、従来のフィールドバスからEthernetベースへと急速に移行しています。その中心となっているのが、産業用Ethernetプロトコルです。
 

 本記事では、広く利用されている以下の3つのプロトコルにフォーカスし、それぞれの技術構造設計思想の違いを分かりやすく解説します。

  1. EtherCAT
  2. PROFINET
  3. EtherNet/IP

(※評価・実装方法については別の記事で解説予定です)


産業用Ethernetとは?

 
産業用Ethernetとは一言で言えば、一般的なEthernetに対して「リアルタイム性」「堅牢性」「診断性」を強化した通信技術です。

通常のEthernetには、産業用途において以下のような課題があります。
 
  • ベストエフォート型通信であり、負荷やスイッチ処理によって遅延が変動
  • フレームロス(パケット損失)が発生する可能性がある
  • TCP/UDP/IPはリアルタイム制御を前提としていない

これらの課題に対して、産業用Ethernetでは各プロトコルが独自のアプローチを採用し、以下の要件を実現しています。
 
  • リアルタイム通信
  • 同期制御
  • 冗長構成
  • 診断機能

 

■ 産業用Ethernetの理解ポイント: OSIモデル

 
 産業用Ethernetを理解するうえで重要なポイントの一つが、「どの層でリアルタイム性を実現しているのか」という視点であり、この理解に役立つのがOSI参照モデルです。OSIモデルは通信機能を7つの層に分割したフレームワークであり、各層は物理信号の伝送からアプリケーション処理まで異なる役割を担います。

 産業用Ethernetでは、このOSI各層をベースとしつつ、プロトコルごとに特定の層を拡張・最適化することで、リアルタイム性や信頼性を実現しています。


産業用EthernetにおけるOSI参照モデル:

階層 名称 産業用Ethernetの役割
7 アプリケーション 通信データの内容(装置制御、ステータス、設定)
6 プレゼンテーション データのエンコード、圧縮、暗号化
5 セッション 通信の確立、維持、終了
4 トランスポート 通信の品質管理(TCP/UDP)、データ到達保証
3 ネットワーク IPアドレスによるルーティング(パケット宛先決定)
2 データリンク MACアドレスによるデータ配送、Ethernetフレームの作成
1 物理 ケーブル(Cat5e/6など)、コネクタ、物理信号の送信

産業用Ethernet のプロトコルごとに使用する層:

ZHOU_XIAO_0-1779432108374.png


各Ethernetプロトコルの特徴:

プロトコル 階層 特徴
EtherCAT 2 IPを使わず高速化
PROFINET RT/IRT がL2
NRTがL3/4
RT/IRTで使い分け
EtherNet/IP 3/4 標準Ethernetベース

この特徴の違いが、そのまま以下に直結します。

  • 速度(リアルタイム性)
  • 実装コスト
  • 適用用途

 

産業用ネットワークの基本構造

 
Industrial Ethernetは、プロトコルが異なっても概ね共通した基本構造を持っており、本記事で取り上げる3つのプロトコル(EtherCAT、PROFINET、EtherNet/IP)も同様です。

■ システム・デバイス構造

 
産業用ネットワークは、大きく「コントローラ側」と「デバイス側」に分けられます。
 

メイン・デバイス(コントローラ):

ネットワーク全体を制御する中心的な役割を担います。

  • 通信の開始および接続パラメータの設定
  • 出力データの送信および入力データの受信
  • 通信の管理および終了処理

 代表例: PLC、産業用PC 


サブ・デバイス(デバイス):

  • 接続要求に応答し、必要なデータを送受信
  • 出力データの受信および入力データの送信
  • ネットワーク上での自己通知
  • 必要に応じてアラーム送信

 代表例:センサ、サーボ、アクチュエータ


■ 通信方式:周期通信 vs 非周期通信


一度接続が確立されると、MainDevice SubDevice の間では、非常に短い周期で I/O データが連続的に交換されます。この通信は、用途に応じて「周期通信」と「非周期通信」に分けられます。

Cyclic通信(周期通信)

 用途:リアルタイム制御用

 ・モータ制御や I/O 制御など、リアルタイム性が求められる場面で不可欠

Acyclic通信(非周期通信)

 用途:設定・診断・イベント用

 ・設定データの読み書きや診断情報、予期しないイベントの通知などに使用


■リアルタイム性を支える重要概念:同期(Clock


産業システムでは、「すべてのデバイスが同一の時間基準で動作すること」が非常に重要です。

例えば、下図のように複数のデバイスがそれぞれ Δt₁、Δt₂、Δt₃ と異なるタイミングでデータを取得している場合、コントローラ(PLC)が受け取る情報は、同一時刻のデータではなく、時間的にずれた「バラバラのスナップショット」となります。

その結果:

  • 位置ずれの発生
  • 誤った制御判断
  • 特にモーション制御における重大な同期エラー

といった問題につながります。

そのため、Industrial Ethernet では各デバイス間でクロックを同期させる仕組みが非常に重要な要素となります。

ZHOU_XIAO_2-1779431627985.png


3つのプロトコルの技術比較まとめ


  EtherCAT PROFINET EtherNet/IP
運営組織 Bechoff
/ ETG (EtherCAT Technology Group)
Siemens
/ PNO (PROFIBUS & PROFINET International)
Rockwell
/ OVDA (Open Device Net Vendors Association)
通信方式 Summation frame (フレームを通過しながらSubDeviceがデータを読み書き) Layer 2ベースのリアルタイム通信 (RT/IRT) CIP : Explicit(TCP) / Implicit(UDP) 通信モデル
主要用途 モーション制御、超高速制御 汎用FA、工程制御、広範な産業用途 工場自動化、PLCネットワーク、ロボット
サイクルタイム ~31.25μsレベル(実装依存、非常に高速) RT: 数ms
IRT: 31.25μs(実装依存、TSN/IRT)
一般的に10msレベル(UDPベース)
同期方式 Distributed Clock (DC) IRT : 高精度同期 (PTCP) CIP Sync (IEEE1588)
デバイスモデル PDO / SDO (CANopen over EtherCAT) Slot / Subslot (GSDML) Class / Instance / Attribute Object Model
トポロジ ライン、ツリー、リング(低遅延) ライン、スター、リング(MRP/MRPD) ライン、スター、リング(DLR)
利点 とにかく高速・低遅延 / ハードウェアでの処理 様々なクラスと診断機能、高い相互運用性 標準Ethernetインフラで広く利用、理解しやすい

ここからは、それぞれの技術的特徴を解説していきます。


1. EtherCAT(超高速・低遅延志向)


EtherCAT概要


  • Beckhoff Automationが開発、ETGが管理
  • レイヤ2で動作し、IP/TCP/UDPのオーバーヘッドなし
  • サイクルタイム:~31.25μs (実装依存)
  • 同期精度:±1μs以下

ZHOU_XIAO_0-1779258860716.png


■ ネットワーク構成

  • メインデバイス(マスター) と  複数のサブデバイス(スレーブ)
  • サブデバイス は ESCEtherCAT Slave Controller)搭載、専用ハードウェアで高速処理
  • ライン構成が基本だが、リング化による冗長構成にも対応

ZHOU_XIAO_0-1780967472867.png


    図:EtherCATネットワーク構成イメージ


EtherCATの最大の特徴が「オンザフライ処理」です。1つのフレームが全デバイスを通過しながら処理され、各デバイスは通過中にデータを読み書きします。専用ハードウェア(ESC)によりCPUを介さず処理されるため、極めて低遅延を実現します。


 

ZHOU_XIAO_3-1780967819685.png




図:EtherCATネットワーク転送イメージ


■ 関連プロトコル変換:EtherCAT (IEC 61784-2-12)

CoE (CAN over EtherCAT) : CANopen 通信を EtherCAT のフレーム上でトンネリングして使えるようにしたもの

FoE (File over EtherCAT) : EtherCAT 経由でファイル転送を行うプロトコル

EoE (Ethernet over EtherCAT) : 通常の Ethernet フレーム(TCP/IP など)をカプセル化して流す仕組み。

ZHOU_XIAO_4-1779258860793.png

    図:マスタデバイス(MDevice)によるEoEプロトコル変換


2. PROFINET(柔軟性・相互運用性)


PROFINET概要


  • Siemensが開発、PNOが管理
  • 標準Ethernetベース
  • RT/IRT/NRTを用途で使い分け
  • Producer/Consumerモデル

■ ネットワーク構成


  • ライン、スター、混在などのトポロジー柔軟に対応
  • MRPMedia Redundancy Protocol/ MRPD (IRT)によるリング冗長にも対応
  • PROFINET の通信性能は “Conformance ClassCC)” で分類されている

 CC‑A:基本的なリアルタイム、すべてのIT サービス(例 TCP/IP)は制限なく使用

 CC‑B:ネットワーク診断などを追加し、一般 FA RT

 CC‑CIRT):31.25μs クラスのモーション用途


■ 通信タイプ

  • NRT:  Record Read/Write:パラメータや設定を非周期で送受信                                                                                                        Alarms:デバイスからの異常通知
  • RT:周期 I/O 通信 一般的に 1ms
  • IRT :(アイソクロナス):時間同期された高速周期通信, 一般的に31.25us

                        →高い柔軟性・詳細な診断・高い相互運用性を実現

ZHOU_XIAO_5-1779258860863.png


3. EtherNet/IPIT親和性・標準性)


EtherNet/IP概要


  • EtherNet/IP は、ODVA(Open DeviceNet Vendors Association) により管理
  • TCP/UDP/IP(L3/L4)の上のレイヤーで動作するCIP(Common Industrial Protocol)を採用
  • オブジェクト指向モデル

ZHOU_XIAO_6-1779258860900.png


■ ネットワーク構成

  • ライン、スター、リングのトポロジーをサポート
  • DLRDevice Level Ring)による高速冗長化をサポート

 メインデバイス→ Scanner:コントローラとして機能し、通常はリクエストを開始

 サブデバイス→Adapter:そのリクエストに応答するデバイス


■ EtherNet/IP の特徴「オブジェクト指向モデル」

各デバイスは「Class」「Instance」「Attribute」「Service」から構成されるオブジェクトの集合体として定義されます。

  • Class:機能の種類(例:IdentityAssembly
  • Instance:そのクラスの具体的な1つの実体
  • Attribute:各インスタンスが持つ具体的な値
  • Service:読み書きなど操作内容

これにより、装置の機能が非常に明快に構造化され、メーカーを超えて高い互換性を実現できます。

ZHOU_XIAO_7-1779258860986.png


■ 通信タイプ

Explicit Messaging Connection(明示的通信)

  • TCP を使用、設定値の読書き、自己診断、ログ取得
  • 「読んで」「書いて」といった指示を1回ずつ行う

Implicit Messaging- I/O Connection(暗黙的通信)

  • UDP を使用、サイクル I/O などリアルタイム通信、スキャナが一定周期で I/O データを送受信  
  • ImplicitUDP)で高速な I/O 通信ができるのが EtherNet/IP のポイントです。


まとめ


産業用Ethernetは単なる通信ではなく、「リアルタイム制御を成立させるためのシステム技術」です。今回紹介した3つのプロトコルは、それぞれ異なるアプローチでそれを実現しています。

プロトコル 設計思想 主な用途
EtherCAT 高速・低遅延 モーション制御
PROFINET 柔軟性・統合 汎用FA
EtherNet/IP IT統合 PLCネットワーク

 

今後のトレンドとして、産業ネットワークは次の方向へ進みます。

  • TSNTime Sensitive Networking
  • セキュリティ(CRA対応など)
  • OPC UAとの統合

つまり 「リアルタイム × IT統合 × セキュリティ」融合が鍵となります。


次回は、

  • i.MX RT1180がなぜ産業Ethernetプロトコルに適するのか?
  • 実際の実装、評価手順

について解説していきます。


=============================

本投稿の「Comment」欄にコメントをいただいても、現在返信に対応しておりません。
お手数をおかけしますが、お問い合わせの際には「NXPへの技術質問 - 問い合わせ方法 (日本語ブログ)」をご参照ください。
(既に弊社NXP代理店、もしくはNXPとお付き合いのある方は、直接担当者へご質問いただいてもかまいません。)


 産業機器における通信は、従来のフィールドバスからEthernetベースへと急速に移行しています。その中心となっているのが、産業用Ethernetプロトコルです。

 本記事では、広く利用されている以下の3つのプロトコルにフォーカスし、それぞれの技術構造設計思想の違いを分かりやすく解説します。

  1. EtherCAT
  2. PROFINET
  3. EtherNet/IP

(※評価・実装方法については別の記事で解説予定です)

 
産業用Ethernet主流のEtherCAT・PROFINET・EtherNet/IPの3大プロトコルを取り上げ、それぞれの技術構造と設計思想の違いを分かりやすく解説します。
 

(読了時間:15分)

i.MX RT Processorsintroduction日本語ブログ
タグ(1)
評価なし
バージョン履歴
最終更新日:
昨日
更新者: